「同じことを言っているのに、伝わり方が全然違う」
「なんだか自信がなさそうに聞こえる」「強く言いすぎたかも」――。
そんな“言葉の印象”に悩んだ経験はありませんか?
会議や1on1などで、「〜です」と言い切るのか、「〜と思います」と添えるのか。
たったそれだけで、相手に与える印象は大きく変わります。
リーダーの発言が「自信に満ちて見える」のか、「共感的で柔らかく見える」のか――。
その違いは、言葉の“語尾”が生み出しているのです。
言葉は、思考と態度のあらわれです。
断定する「です」と、余白を残す「と思います」には、
それぞれに込められた意図と、相手との関係性が映し出されています。
「どちらが正しい」ではなく、「どの場面でどう使うか」が重要です。
アメリカの中小企業で広く導入されている、EOS(Entrepreneurial Operating System/起業家型組織運営システム)では、
チームを動かすために「言葉の明確さ」を重視します。
あいまいな表現を避け、仕組みとして意思決定や伝達を整える文化があるのです。
EOSとは?
経営者やチームが「ビジョンを明確にし、実行を仕組み化する」ための実践的システム。
人や組織の課題を“感情論”ではなく“構造”で解決する考え方が特徴です。
この記事では、
リーダーの言葉づかいがチームに与える影響を見直し、
「言い切る力」と「余白を残す力」をどう使い分けるかについて考えます。
リーダーの言葉が、チームの温度を変えてしまう
同じ内容を伝えても、
「自信がある」「押しつけがましい」「頼りない」――。
受け取る側の印象がバラバラになることがあります。
たとえば、会議で部下に方針を伝えるとき。
「この方向で進めます」と言い切ると、確信に満ちて聞こえる一方、
人によっては「決めつけられた」と感じてしまう。
逆に「この方向で進めたいと思います」と言うと、
柔らかく聞こえる反面、「判断を委ねられた」と捉えられることもあります。
リーダーの発言が誤解される“あるある”
- 「〜です」ばかり使っていたら、強引に見られた
- 「〜と思います」を多用したら、決断力がないと言われた
- 言葉を選んだつもりが、伝わり方が全く違った
つまり、リーダーの発言は内容だけでなく、
「どう言うか」でチームの空気を左右しているのです。
一見些細な語尾の違いが、信頼・安心・行動のスイッチを決めてしまう。
この「伝わり方のズレ」は、コミュニケーション能力の問題ではなく、
リーダーがどんな“姿勢”で言葉を発しているかに起因しています。
なぜ言葉を「言い切れない」リーダーが増えているのか
「です」と言い切ることに、どこか抵抗を感じる――。
そんなリーダーは少なくありません。
特に日本の職場では、強く断定することが「偉そう」「押しつけ」と受け取られることを恐れ、
つい「と思います」とやわらかく伝えてしまう傾向があります。
その背景には、文化的にも心理的にも深い理由があります。
日本では、対立よりも調和を重んじる文化が根づいており、
意見の違いを「衝突」とみなす傾向があるのです。
リーダーが言い切れなくなる3つの背景
- 調和志向:対立を避け、波風を立てたくない
- 評価への不安:「上司にどう思われるか」を気にしてしまう
- 責任の重さ:断定した瞬間に、すべての結果を背負う感覚
一方で、これらの心理は「優しさ」や「思いやり」の裏返しでもあります。
相手を尊重しようとする気持ちが、曖昧な表現へと変換されているのです。
しかし、その“曖昧さ”が続くと、
チームは「どこまでが決定事項なのか」が見えなくなり、迷いが生じます。
結果的に、リーダーの言葉がやさしいほど、行動は止まってしまうのです。
言葉は「構造」で相手に作用する
私たちは、言葉の「内容」だけでなく、その「構造」からも印象を受け取っています。
つまり、語尾の違いは“情報”というより“心理的な信号”として働いているのです。
たとえば「〜です」は、明確で断定的。聞く人に安心感や方向性を与えます。
一方、「〜と思います」は、相手への配慮や柔らかさを感じさせる表現です。
どちらが正しいというより、言葉の構造がメッセージのトーンを決めていると言えるでしょう。
| 表現 | 相手に与える印象 | 適した場面 | 
|---|---|---|
| 〜です | 確信・安定感・リーダーシップ | 方針の提示・判断の表明・結論を伝えるとき | 
| 〜と思います | 柔らかさ・共感・距離の近さ | 議論・意見交換・相手に考えを促したいとき | 
人は「言い切られる」と方向を理解し、「共に考えよう」と言われると心を開きます。
つまり、言葉は単なる情報伝達ではなく、相手との心理的距離を調整するツールなのです。
リーダーが言葉を使い分けるというのは、ただ丁寧に話すことではありません。
状況に応じて、チームの“心の温度”を設計すること。
ここに、コミュニケーションの本質的な原理が隠れています。
言葉を“使い分ける力”が、成熟したリーダーをつくる

“です”と“と思います”のどちらが正しいか――。
その答えは、状況によって変わります。
大切なのは、どちらを使うかではなく、「どんな意図で使っているか」です。
言葉は、リーダーの立ち位置を映す鏡です。
確信を持って方針を示すときには「〜です」と言い切る勇気を。
一方で、相手に考えを促したいときは「〜と思います」で余白を残す。
この使い分けが、チームとの信頼を生み出します。
一方向の発信だけでは、メンバーは動きません。
しかし、曖昧さに寄りすぎると、方向が見えなくなります。
リーダーが言葉の温度を調整することで、「伝える」と「聴く」のバランスが生まれるのです。
このバランス感覚を身につけることは、単なる話し方のテクニックではありません。
チームの心理的安全性を守りながら、成果を生み出す“リーダーシップの技術”です。
「言葉の使い分け」を、感覚ではなく仕組みで整える
言葉の使い分けは、センスや経験だけに頼るものではありません。
組織としての意思決定やコミュニケーションの「型」が整っていれば、
リーダーの言葉にも一貫性が生まれます。
アメリカの中小企業を中心に導入されている
EOS(Entrepreneurial Operating System/起業家型組織運営システム)では、
経営チームが感情に流されず、明確に伝え、共に考えるための仕組みを持っています。
EOSの中核にある会議手法「L10ミーティング」や「IDS(Identify・Discuss・Solve)」では、
問題を明確にし、全員で議論し、最終的に解決へ導くプロセスが定められています。
このプロセスにおいて、リーダーは「断定」と「傾聴」を使い分けながら場を導くのです。
このようにEOSでは、“言葉の強さ”も仕組みの一部です。
判断が必要な場面では「〜です」と明確に示し、
対話が必要な場面では「〜と思います」と余白を残す。
このバランスを、リーダー個人の感情ではなく、組織のルールとして再現できるのがEOSの強みです。
小さな言葉の選択が、チームの信頼をつくる
“語尾ひとつ”を意識するだけで、会話の雰囲気は変わります。
「〜です」で方向を示すと、チームに安心感が生まれ、
「〜と思います」で意見を聞くと、チームに参加意識が生まれる。
どちらも、リーダーとしての誠実な姿勢の表れです。
リーダーは完璧である必要はありません。
大切なのは、自分の言葉がどんな影響を与えているかに気づくこと。
その“気づき”が、チームの信頼を取り戻す最初の一歩になります。
このように、言葉の使い方を変えるだけで、
「リーダー=指示する人」から「方向を示し、耳を傾ける人」へと変わっていきます。
それは、チームが自走し始める最初のサインでもあります。
そして何より、リーダー自身が“自分の言葉を整える”ことは、
チーム全体のコミュニケーションを整えることに直結します。
言葉の選択は、日常の中で最も小さく、最も強力なリーダーシップです。
まとめ|「です」と「と思います」が示す、リーダーの在り方
“です”は信頼を生み、“と思います”は安心を生む。
どちらの言葉にも、リーダーとしての誠実さが宿っています。
言い切る力と寄り添う力――その両方を自在に使える人こそ、
チームを導けるリーダーです。
言葉づかいは単なるマナーではなく、
リーダーの思考を可視化する仕組みです。
自分の語尾を意識することで、伝え方が整い、思考が明確になり、
やがてチームの信頼構築へとつながっていきます。
そして、EOS(起業家型組織運営システム)が教えてくれるのは、
その“言葉の整え方”を感覚ではなく仕組みで再現する方法。
感情でぶつからず、構造で伝えることで、組織は前進します。
今日、あなたが使う「です」と「と思います」。
その一言が、誰かの行動を決め、チームの未来を変えるかもしれません。
書籍紹介
『TRACTION』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)の公式ガイドブックです。
会議の進め方(L10ミーティング)や課題解決のプロセス(IDS)、数値でチームを導くスコアカードなど、
「感覚ではなく、構造で伝える」ための実践的ツールが体系的にまとめられています。
リーダーの言葉に一貫性を持たせたい、
“伝わるコミュニケーション”をチーム文化として根づかせたい――。
そんなリーダーにとって、『TRACTION』は単なる経営書ではなく、
「言葉の明確さ」を仕組みとして磨くための教科書です。
▶『TRACTION』ビジネスの手綱を握りなおす 中小企業のシンプルイノベーション
 ジーノ・ウィックマン 著
 
  
  
  
  