「先輩の背中を見て学べ」――かつて日本企業では当たり前のように語られてきた言葉です。けれど、変化のスピードが速く、働き方も多様化した今、そのやり方だけでは人は育ちません。特に女性リーダー育成の場面では、「背中」だけでなく、誰もが再現できるプロセスが欠かせない時代になっています。
背中を見て学べが通用しない時代
暗黙知に頼るリーダーシップの限界
かつては「仕事は見て盗め」という暗黙知が有効に働いていた時代もありました。しかし現在は、業務の複雑化やリモートワークの普及により、リーダーの行動を常に観察することは難しくなっています。さらに、属人的なスキルや経験は他者に伝わりにくく、育成のスピードを鈍らせる要因となります。
女性リーダー育成における「再現性の壁」
特に女性リーダー育成の現場では、「同じようにできない」という不安が大きな壁になります。上司のやり方を真似しようとしても、性格や価値観の違いでうまくいかないケースが多いのです。その結果、「私はリーダーに向いていないのでは」と自己否定につながることも少なくありません。
属人化が組織にもたらすリスク
属人化したリーダーシップは、組織全体にリスクをもたらします。あるリーダーが異動・退職した途端にチームが混乱するのは、仕事が「人に依存していた」証拠です。人に頼るのではなく、仕組み=プロセスに頼ることで初めて、持続的に人を育てられる組織ができます。
EOSの「プロセス」で解決する
プロセスを明文化する意味
EOSでは、重要な業務の進め方を「プロセス」として明文化します。やり方を言語化・共有することで、誰が実行しても一定の成果が出せる再現性が確立されます。これにより、リーダーの「感覚」ではなく、組織の「仕組み」によって人が育つ環境が整います。
誰もが同じやり方で動ける強み
プロセスが共有されていれば、新人であっても安心して行動できます。「どうすればいいか分からない」という迷いが減り、時間とエネルギーを成果に直結する活動に集中できるのです。組織全体で同じ基準を持つことで、サービスや品質のバラつきも減少します。
女性リーダーにとってのメリット

女性リーダーにとっても、プロセス化は大きな支えになります。感覚や勘に頼らず、「正しいやり方」が明示されていることで、部下への指導がしやすくなります。また、自分が不在のときにもチームが回る安心感を得られるため、過度な責任感から解放されやすくなります。
プロセスを伝える具体的ステップ
プロセス化といっても、最初から完璧なマニュアルを作る必要はありません。日常業務を整理し、現実的に「十分なやり方」を決めて、実行可能な形で伝えることが大切です。以下のステップで進めると、チーム全員が迷わず動ける仕組みになります。
ステップ | ポイント | 現場あるある |
---|---|---|
1. チームの日常業務から洗い出す | メンバーに「どうやっているか」をヒアリングし、暗黙知を見える化する。 | 人によってやり方が違い、「あの人に聞かないと分からない」と属人化している。 |
2. 80%ルールで決める | 「80%の人が80%の時間でできるやり方」を基準にプロセスを定義する。 | 「もっと完璧にしよう」と時間をかけすぎて、結局使われないマニュアルができてしまう。 |
3. 実行しやすさを優先する | 分厚い文書ではなく、チェックリストやフロー図など実践的に使える形に落とし込む。 | 資料は立派だけど誰も見ず、結局現場は自己流で動いている。 |
チームの日常業務からプロセスを洗い出す
まずはチームが日常的に行っている業務を棚卸しします。「どうやってやっているか」を一人ひとりに確認することで、暗黙知が浮かび上がります。そこから「共通しているやり方」を抜き出し、プロセスの原型とします。
80%ルールで「十分なやり方」を決める
完璧なマニュアルを目指す必要はありません。EOSでは「80%の人が80%の時間でできるやり方」を基準にプロセスを決めます。これにより、現実的で使いやすいルールが整い、チーム全員が迷わず動ける仕組みが生まれます。
文書化より「実行できるか」を重視する
分厚いマニュアルよりも、「実際に実行できるシンプルな手順書」が大切です。チェックリストやフローチャートのように、すぐ使える形で残すことで、チームが自然にプロセスを活用できるようになります。
背中ではなく「仕組み」で伝えるリーダーへ
女性リーダーが意識したい伝え方
「やってみせる」だけでなく、「こうすればできる」という仕組みで伝えることが、次世代リーダー育成には欠かせません。女性リーダーが自分らしい言葉でプロセスを補足すれば、メンバーも安心して学べます。
部下が安心して成長できる環境づくり
プロセスが整備されていることで、部下は「失敗してもやり方を確認できる」という安心感を持てます。これは挑戦意欲を高め、成長スピードを加速させる要因となります。心理的安全性と成長支援を同時に実現できるのです。
プロセス文化が根付いたチームの姿
プロセスが文化として根付くと、チームは「誰がやっても一定の成果を出せる組織」に進化します。リーダーは指示に追われるのではなく、より高いレベルの課題解決や戦略的な判断に集中できるようになります。
まとめ:プロセスで人を育てる時代
背中を見て学ぶだけでは、再現性のあるリーダー育成は難しい時代になりました。今求められているのは、感覚や経験に頼らず「仕組みで伝える」リーダーです。EOSのプロセスを活用することで、女性リーダーは自分らしさを保ちながらも、人を育てる再現性をチームに提供できます。
女性リーダーのためのチェックリスト
- 「背中で見せる」だけでなく、仕組みで伝えているか?
- 部下が迷ったときに参照できるプロセスを整えているか?
- 自分が不在でもチームが動ける仕組みを持っているか?
- 完璧ではなく「十分なやり方」で運用できているか?
- 部下が安心して挑戦できる環境を作れているか?
書籍紹介|『TRACTION』とは?
『TRACTION』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)の公式ガイドブックです。暗黙知や「背中を見て学べ」ではなく、再現性のある仕組みで人を育てる方法が体系的にまとめられています。L10ミーティング(10点満点ミーティング)、石(Rocks)、スコアカード、プロセス明文化といった実践ツールを通じて、女性リーダーが「属人化」から「仕組み化」へシフトするためのヒントを得られます。
「人に頼るリーダーシップ」から「仕組みに頼るリーダーシップ」へと切り替えたい方に、最適な一冊です。
▶ 『TRACTION』ビジネスの手綱を握りなおす 中小企業のシンプルイノベーション
ジーノ・ウィックマン 著