女性リーダーとして責任感を持つ人ほど「部下に負担をかけたくない」「自分がやれば早い」と考え、仕事を抱え込みがちです。その優しさは美徳ですが、気づけばリーダー自身が残業まみれに。こうした状況を改善するにはスコープコントロール アジリティを意識することが欠かせません。
こうした状況を整理すると浮かび上がるのが「スコープクリープ」という現象です。解決のヒントは、EOS(起業家型組織運営システム)の考え方に隠されています。
スコープクリープとは?
スコープクリープとは、計画していなかった作業が雪だるま式に増えていく現象のことです。
現場でよくある例を見てみましょう。
- 「ついでにこれもやっておいて」と追加される
- 「後から仕様を少し変えたい」と言われる
- 「今のついでに別のチームの仕事もお願い」と頼まれる
この積み重ねによって、本来の目標がぼやけ、リソース不足・納期遅れ・品質低下を招きます。つまり、パニックに陥る原因をつくるのがスコープクリープなのです。
EOSの石(Rocks)で最優先を決める
EOSには「石(Rocks)」という仕組みがあります。石とは「90日間で最優先に取り組む3〜7個の目標」のこと。これを決めることで、自分やチームが今どこに力を注ぐべきかが明確になります。
石は単なるTODOリストではなく、会社の成長に直結する重要なタスクです。そのため「石以外はやらなくてもいい」という判断基準になります。
一方で、リーダーとして「石以外は一切やりません」という態度では現実的ではありません。なぜなら、組織では部門をまたいで助け合うクロスファンクショナルな動きも必要だからです。
では、どうすればよいのでしょうか。ここで役立つのがスコープコントロールとアジリティの考え方です。
スコープコントロールとアジリティの考え方
スコープコントロールとは?
リーダーが集中すべきことを守るために欠かせないのがスコープコントロールです。これは責任範囲を明確にし、余計な仕事の膨張を防ぐ仕組みを意味します。結果として、チームは石(Rocks)に専念できるようになります。
アジリティとは?
アジリティ(Agility)とは、状況に応じて俊敏に判断する力です。石を守りながらも、突発的な仕事や想定外の依頼に対して「受け入れる/断る/後回しにする」を素早く決めることが求められます。
もし「石」だけに集中しすぎると柔軟性を欠きます。逆に「何でも受け入れる」とスコープクリープに陥り、生産性が落ちます。そのため、両者をバランスさせるのがスコープコントロール+アジリティです。
要素 | 意味 | 女性リーダーへのヒント |
---|---|---|
石(Rocks) | 90日の最優先事項 | 「これは石に関係しているか?」を基準に判断する |
スコープコントロール | 責任範囲を守り膨張を防ぐ | 責任範囲を明確化し、余計な仕事は議論へ回す |
アジリティ | 例外を俊敏に判断する力 | 受ける/断る/後回しを素早く切り替える |
スコープクリープ | 雪だるま式に仕事が増える現象 | 早めに気づき、石を基準にリセットする |
例外を素早く見極める5つのコツ

石(Rocks)を基準にしていても、現実には突発的な依頼や想定外のタスクが必ず発生します。そこで必要になるのが、例外を素早く見極める判断力です。以下の5つのコツを押さえておけば、優先順位を守りながら柔軟に対応できるようになります。
1. 石(Rocks)に照らす
石(Rocks)はEOSで定める「90日間の最優先事項」です。リーダーが日々の判断に迷ったとき、まず確認すべきは「この仕事は今期の石に関連しているかどうか」です。
関係しているタスクであれば、受ける価値があります。逆に関係していなければ、原則として引き受ける必要はありません。これが優先順位を守る基準です。
ただし、緊急性が高い場合(顧客トラブルや法務関連など)は例外です。その場合でも「石に直結するか」を意識すれば、対応の優先度を見誤らずに済みます。
特に女性リーダーは「頼まれたら断れない」「つい手を出してしまう」といった状況に陥りやすい傾向があります。しかし石を持つことで「これは本当に優先すべきこと?」と立ち止まり、冷静に判断できるのです。
2. 緊急度と重要度で判断する
石に関係しないタスクでも、状況によっては対応が必要になることがあります。そのとき役立つのが「緊急度」と「重要度」で仕分ける考え方です。
- 緊急 × 重要 → 今すぐやる(例:顧客への重大クレーム)
- 緊急 × 重要でない → 他人に任せる or 最小限対応
- 重要 × 緊急でない → 石に紐づけて計画に組み込む
- 緊急でも重要でもない → 後回し or 断る
この四象限を頭の中で瞬時に当てはめるクセをつければ、余計なタスクに振り回されずに済みます。
3. 責任範囲(スコープ)を確認する
スコープとは「誰が・どこまで・何に責任を持つか」という境界線です。ここが曖昧なまま依頼を受けると、やることが雪だるま式に増え、優先すべき仕事(石)を圧迫します。
迷ったときは、次のクイックチェックで事実をそろえましょう。
- 成果責任者は誰か?(最終的に誰の結果として数えられる仕事か)
- 期待される成果物は何か?(アウトプットの定義は明確か)
- 期限と優先度は?(今期の石に影響するか)
- 変更の根拠は?(法令・顧客・安全などの正当性はあるか)
- 石(Rocks)との関係は?(直接結びつく/間接/無関係)
スコープ外と判断した場合は、抱え込まずに次のいずれかに載せ替えます。
- 課題解決のミーティングへ持ち込む(定例または臨時の場で優先度や担当を決める)
- 依頼元とスコープの再確認・再合意(「今回はAに集中、Bは次期に検討」など明文化)
- 適合する人がいれば正式にアサイン(役割・責任・期限・成果物を明記して引き継ぐ)
その際の伝え方の例:
「現状のスコープでは対応外のため、課題解決のミーティングで扱わせてください。」
「今期の石との整合を取りたいので、優先度と担当をいったん整理して決めましょう。」
ポイントは、“自分で背負わないで、正しい場に載せる”ことです。
4. GWCで人に任せる
EOSでは、適切な任せ先を判断する基準としてGWCを使います。G=Get it(仕事の本質を理解している)、W=Want it(やりたい意欲がある)、C=Capacity(能力や時間がある)の3条件です。すべて満たしていれば安心して任せられます。
任せる判断の目安
- G・W・Cすべて満たす:任せる(正式にアサイン)
- 2つのみ満たす:任せるが支援条件を明確にする
- 1つ以下:任せない(別の人を探す or スコープを調整)
正式にアサインするときに明記する項目
- 役割と責任(最終責任者/報告ライン)
- 期待する成果物(アウトプットの定義・範囲)
- 期限と優先度(中間チェック日も設定)
- 判断基準(KPIや品質基準など)
- 権限と制約(予算・ツール・意思決定権)
- 最初のチェックポイント(リスクが膨らむ前に早期確認)
ポイントは、「任せる=丸投げ」ではないことです。条件を整えて引き継げば、リーダーは抱え込みから解放され、相手の成長も促せます。
5. 一呼吸フレーズを持つ
忙しい現場では、頼まれた瞬間の空気や相手の困り顔につられて、つい「私がやります」と言ってしまいがちです。とくに誠実で気遣いのできる女性リーダーほど、その場で引き受けてしまいます。だからこそ、自分を守るための一呼吸フレーズを準備しておきましょう。
これは断るための言葉ではなく、考える余白をつくる言葉です。相手の気持ちに寄り添いながら、優先順位(石)に立ち返る時間を確保できます。
- 「少しだけ考える時間をください。◻︎時までにお返事します。」
- 「今期の優先と整合させたいので、確認してからご連絡します。」
- 「期限と期待する成果物を教えてください。最適な進め方を検討します。」
- 「今はリソースが満杯です。別案も含めて整理してご提案します。」
- 「概要をメモにできますか?それを基に判断させてください。」
落ち着きを取り戻すためのミニ習慣
- 3呼吸ルール:ゆっくり3回深呼吸してから返答する。
- 石カード:デスクに「今期の石」を1枚で可視化し、見る→答える。
- 四象限メモ:緊急/重要マトリクスを手元に置き、当てはめてから返答。
- 時間ブロック確認:自分とチームの空き枠を見てから可否を判断。
一呼吸フレーズは、相手を突き放すためのものではありません。相手の要件をより良い形で叶えるために、あなたが冷静さを取り戻すためのツールです。優しさを保ったまま、石(Rocks)とスコープを守る――それが、長く健全に成果を出し続けるリーダーの在り方です。
まとめ
女性リーダーが抱え込みから抜け出すためには、まず「スコープクリープ」という現象を理解し、石(Rocks)を最優先に据えて行動することが大切です。そのうえで、スコープコントロールとアジリティを組み合わせて、優先順位を守りつつ柔軟に対応できるリーダーへと成長していきましょう。