「責任を課す」と「責任を問う」――。どちらもリーダーにとって欠かせない言葉ですが、その“違い”を意識して使い分けている人は、意外と多くありません。
特に、共感力や配慮を強みにしてきた女性リーダーにとって、「任せること」と「成果を確認すること」は、どこかで“厳しさ”や“冷たさ”に見えることがあり、距離を置いてしまいがちなテーマかもしれません。
しかし実際には、「責任を課す」ことなくして「責任を問う」ことはできず、また「問う」ことを通じて初めて、部下は自らの責任を引き受けていくのです。この2つは似ているようでまったく別の機能であり、どちらか一方では組織も人も育ちません。
この記事では、EOSの視点と女性リーダーならではの強みを交えながら、「責任を課す」と「問う」の本質的な違いをひもとき、任せただけで終わらせないリーダーシップの在り方を探っていきます。
「責任を課す」と「問う」の本質的な違いとは?
「責任を課す」と「問う」の違いを比較で整理すると、以下のようになります。
比較項目 | 責任を課す | 責任を問う |
---|---|---|
主体 | リーダー(上司) | 部下(担当者) |
タイミング | 業務開始前 | 業務完了後・中間レビュー時 |
目的 | 期待・成果を明確に伝える | 実行状況・成果の確認と対話 |
必要な要素 | 仕事内容・背景・目的の共有 | 振り返り・内省・事実に基づく対話 |
リーダーの姿勢 | 信頼して任せる、導く | 感情ではなく事実で問う |
部下の状態 | 納得・腹落ちしてスタートできる | 当事者意識を持ち、責任を自覚する |
多くの女性リーダーは、共感力や調和を重んじる一方で、「相手を追い詰めたくない」「あまり厳しく見られたくない」という気持ちから、「責任」に関する伝え方をためらってしまうことがあります。
しかし、リーダーである以上、「責任」と向き合う場面は避けられません。EOSでは、人を導く立場にある者はLMA(Lead・Manage・hold Accountable)を実行する責任があるとされています。
LMAとアカウンタビリティチャートの関係
このLMAは、EOSで役割を明文化するアカウンタビリティチャートにも明記される非常に重要な機能の一つです。
「人を導くポジションにある以上、LMAを実行することがその人の責任である」と定義されており、単なる姿勢や努力ではなく、明確な職務上の役割として求められます。
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つまり、「責任を課す」「責任を問う」は、“できたらいい”ではなく、“やらなければならないこと”。リーダーである以上、避けては通れない義務だということです。
▶ LMAとは何か?女性リーダーが身につけたい3つの力を詳しく解説
このうち、「責任を課す」はManage(管理)の役割に、「責任を問う」はhold Accountable(責任を持たせる)に該当します。どちらか一方ではリーダーの役割を果たせず、両方の機能があってこそ、部下の主体性と成長を支えることができるのです。
「任せた」はスタートラインにすぎない

共感力が高く、周囲の反応に敏感な女性リーダーほど、「任せる」という行為に慎重になりがちです。「厳しく思われたらどうしよう」「負担にならないだろうか」といった気遣いから、本来“任せるべきこと”を曖昧に伝えてしまうことも少なくありません。
しかし、リーダーが本気で部下の成長を願うなら、「任せた」はゴールではなく、成長のスタートラインです。単に「この仕事をお願いね」と言うだけでは、責任は課されたことになりません。
任せる内容は、具体的で明確であることが大前提です。何を、どこまで、いつまでに。さらに、「なぜあなたに任せるのか」「これはどんな意味のある仕事なのか」「これをやりきれば、どんな成果や貢献につながるのか」という、“責任の背景”と“期待の道筋”まで共有できて初めて、部下は当事者として動き出すことができます。
EOSでは「期待を明確にすること」がLMAの基本とされており、そこにお互いの認識をすり合わせる“対話”が欠かせません。任せるとは、タスクの委譲ではなく、信頼と理解をベースにした“協働”のスタートなのです。
「察してくれるはず」「これくらいはわかるだろう」といった期待ではなく、分かり合うことに時間をかけるリーダーこそ、本当に任せられるリーダーです。
「責任を課す」と「問う」の違いを深掘りする
誰が“主体”なのか?
実は現場でよくあるのが、責任を課すプロセスをすっ飛ばして、いきなり責任を問うパターン。例えば「まだできていないの?」「ちゃんとやってって言ったよね?」といった言葉がそれにあたります。
部下からすれば「何をどこまでやればよかったのか、ちゃんと説明された記憶がない…」という状態で責任だけを問われ、理不尽に感じたり、受け身になったりしてしまうのです。
だからこそ、責任を“問う”前に、何を・なぜ・どこまでやるのかを、明確に“課す”ことが絶対に必要です。ここを飛ばしてしまうと、どんなに誠実な部下でも成果にはつながりません。
「責任を課す」はリーダーが主体。「あなたにこの仕事を任せる。○○までに、□□という成果を出してほしい」と明確に伝える行為です。
一方、「責任を問う」は部下が主体。「あなたが行ったこの仕事について、どう取り組み、何が得られたか」を確認するプロセス。これは部下に自己認識と当事者意識を持たせる問いです。
部下を“当事者”にする問いかけ
「責任を問う」は、部下の思考を促し、内省を深める行為です。EOSでは、部下がGWC(Get it / Want it / Capacity to do it)に合致した「正しい人」であるかを見極めたうえで、アカウンタビリティを担えるよう育成していきます。
▶ GWCを詳しく知りたい方はこちら|キャリアとのフィットを考える
「この仕事、あなたはどう進めた?」「成果に対して自分ではどう評価している?」こうした問いが、部下の主体性を引き出します。
問い続ける文化が組織を育てる
部下に問いかけ、考えさせる文化が組織に根付くと、ミスが減り、予測力が上がり、行動力のある人材が育ちます。これは“責任を問う文化”の成果です。
EOSにおいては、LMA(Lead, Manage, hold Accountable)の最後、「Accountable=責任を持たせる」こそが、真の成果を生むリーダーの役割です。
女性リーダーだからこそ育てられる「問い」の文化
共感力の高い女性リーダーは、「問いを通じた成長支援」が得意です。叱責ではなく内省を促す問いかけによって、部下の意欲を引き出し、成長に導くことができます。
「責任を課す」ことにためらいを感じる女性リーダーも多いですが、それは“厳しさ”ではなく“明確な期待”なのだと認識することが、リーダーとしての成長の第一歩になります。
責任を“問える”組織にするためにリーダーができること
- あいまいな指示を避け、責任の範囲を明確に言語化する
- 目標と期待値を事前にすり合わせ、「OKの定義」を共有する
- 週次ミーティングなどで振り返る文化をつくる
- 部下に「どうだった?」と問う習慣を持つ
- 責任を問う場面では、感情ではなく事実に基づく対話を重視する
こうした習慣が、単なる「任せた」から一歩進んだ、「責任を育てるリーダーシップ」へとつながります。
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