表に立つわけではない。けれど、確実に“会社を動かしている”存在。それが「インテグレーター」というリーダーです。
本記事では、EOS(Entrepreneurial Operating System)を物語で学べる書籍『Get a Grip』を紹介します。
インテグレーターという役割の本質と、その重要性をわかりやすく解説します。
女性リーダーとして「支える力」「調整する力」「やりきる力」を磨きたい方へ。影のリーダー=インテグレーターという選択肢を、ぜひ知ってください。
Get a Gripとは?|物語で学ぶEOSの実践書
『Get a Grip』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)を小説形式で学べるユニークなビジネス書です。
著者は2人。EOSの共同創設者ジーノ・ウィックマンと、実践の専門家マイク・パットンです。
この本では、業績が停滞した架空の会社「スワン・サービス社」が、経営再建のためにEOSを導入し、チーム全員でビジョンと実行力を磨きながら成長していくストーリーが描かれています。
特徴は、単なる理論書ではなく物語形式であることです。
EOSの概念やツールが、実際に使われる場面とともに描かれています。たとえば、L10ミーティング(10点ミーティング)やスコアカード、課題リスト(Issues List)など、EOSのツールが随所に登場します。
ビジョナリーとインテグレーターの役割分担も、実際の企業内のやり取りとして描かれています。
特に印象的なのは、インテグレーターである女性リーダー、ジャニーンの働きです。
混乱した組織をまとめあげる彼女の姿は、読者に「自分もこうなりたい」と思わせる力があります。
EOSを初めて知る方にもおすすめの一冊です。
また、「理論だけでは実務に落とし込めない」と悩むリーダーにも、実践のヒントが詰まっています。
インテグレーターとは?|EOSが定義する“実行の要”
EOSでは、会社のトップに「ビジョナリー(創造型リーダー)」と「インテグレーター(実行型リーダー)」の2つの役割があると定義しています。
役割 | 主な特徴 |
---|---|
ビジョナリー | 未来志向/アイデア/外部との関係/直感 |
インテグレーター | 実行力/調整/問題解決/チームの一体化 |
インテグレーターは、組織の各機能(マーケティング・営業・オペレーション・人材など)を横断的に見渡し、すべての部署を「一枚岩」にまとめあげます。つまり、会社を“ちゃんと動かす”ための中心的存在です。
なぜ女性にインテグレーター型リーダーが向いているのか?

インテグレーターには、「調和」「現実志向」「全体最適」が求められます。これらは、共感力や観察力、関係性を大切にする女性の特性と相性が良いともいわれています。
1. 感情の橋渡しができる
部署間での対立や誤解は、感情のもつれから起こることが少なくありません。
そのとき、「人の気持ち」を読み取りながら、冷静に言葉にし、交通整理するスキルは、女性リーダーが力を発揮しやすい分野です。
論理だけで動かない組織を、“関係性の力”で一つにまとめていくこと。これこそが、インテグレーターの大切な役割です。
2. 最後までやりきる責任感
ビジョナリーが描いた構想を、現場に落とし込む。
そして、四半期や週単位の目標に分解し、確実に実行していくのがインテグレーターの役割です。
この“やりきる力”を持ったインテグレーターは、チームにとって信頼の源になります。
3. 部下の特性を見抜く観察力
EOSには、「GWC」や「ピープルアナライザー」といったツールがあります。
これらは、部下の適性や配置を判断するのにとても役立ちます。
何を得意とし、どこで詰まりやすいかを把握し、最適な配置を考えることも、インテグレーターの重要な仕事です。
女性ならではの“気づく力”が、ここで活きてきます。
“インテグレーターという生き方”を選ぶということ
インテグレーターは、目立つポジションではありません。でも、会社の“裏側”を支え、組織を動かし、人をつなぎ、目標を達成へ導く極めて重要な存在です。
調整役という名の“戦場”に立つ
インテグレーターの仕事は、「部署間の調整」などという一言で片づけられるものではありません。
実際には、マーケティング・営業・人事・経理など、複数の部門がそれぞれの主張をぶつけ合う場面が多くあります。
その“せめぎあい”を乗り越え、全体の最適解を導き出すのが、インテグレーターの役割です。まさに“バトルの仲裁役”とも言える存在です。
それぞれの部署には正義があり、正しさがあり、譲れない数字や想いがあります。それぞれの意見を受け止め、判断し、1つの方向にまとめるのは簡単ではありません。
ときにはストレスを抱え、孤独を感じることもあります。
それでも、組織が動いた瞬間の“喜び”があると信じて
一見、矛盾した意見たちが、ひとつの方向へ動き出す。
バラバラだった幹部メンバーが、L10ミーティング(10点満点ミーティング)で同じゴールに向かって意思決定できた。
自分が交通整理した構造の中で、社員の顔つきが変わっていった。
そうした「静かだけれど確かな変化」は、インテグレーターだけが味わえる景色です。私自身、まだ“喜び”と呼べるほどのものにはたどりついていません。組織が整い、チームが少しずつ前に進むのを感じたとき。
「やっぱり、この仕事には意味があるんだ」と思える瞬間があります。
“支えるリーダー”という新しいキャリアのかたち
リーダーというと、強く、前に立つ姿を思い浮かべるかもしれません。けれど、インテグレーターは、「他者の力を最大限に発揮させる」支援型リーダーです。
ビジョナリーを支え、チームをまとめ、構造を整え、成果を出す。
華やかではなくても、その影には確かな“力”がある。
そんなインテグレーターという生き方は、これからの時代、もっと注目されるべきリーダー像かもしれません。
まとめ|苦しさの先に、“動く組織”というご褒美が待っている
インテグレーターという生き方は、表には出にくく、評価されにくいポジションかもしれません。でも、誰かがその役割を担わなければ、会社は前に進みません。
部署同士の衝突をおさめ、全体を見渡し、現場を動かす。インテグレーターの役割は、想像以上に心身に負担がかかり、感情も時間もエネルギーも奪われるものです。
それでもなお、この生き方を選ぶ女性が増えていることに希望を感じます。
なぜなら、それが組織をよりしなやかに、より強く、そして未来へ向かって動かす第一歩になると信じているからです。
今日、もし「うまく調整できない」「誰からも感謝されない」と感じていたとしても、大丈夫です。それはあなたが、会社を“本気で動かそうとしている”証拠です。
その先にきっと、「やってよかった」と思える瞬間が待っています。
インテグレーターは、会社の土台をつくるリーダー。
そして、誰よりも深くチームを知り、導いていける存在です。
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書籍紹介:Get a Grip
本記事でご紹介した『Get a Grip』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)を物語形式で学べるビジネス小説です。経営者イーライとインテグレーターのジャニーンを中心に、EOS導入を通じて会社が変わっていくリアルなストーリーが描かれています。
著者は、EOS創設者のジーノ・ウィックマン(Gino Wickman)と、実践家であるマイク・パトン(Mike Paton)。堅い理論書である『TRACTION』とは異なり、実際に導入した企業で起こる課題や人間関係を“リアルに描写”しているため、EOS初心者にも非常に読みやすい構成になっています。
2024年には、待望の日本語翻訳版が刊行され、国内でも徐々に注目が高まりつつあります。特に、インテグレーターの在り方や、L10ミーティング(10点満点ミーティング)の進行方法など、リーダー・マネージャーにとって現場で役立つヒントが詰まった一冊です。
「なぜうまくいかないのか?」
「チームがバラバラな理由は何か?」
「どうすれば実行に移せるのか?」
そんな疑問を抱えるすべての人に、まず手に取ってほしい一冊です。
書籍情報:
書名:Get a Grip(邦題:『ゲット・ア・グリップ』)
著者:Gino Wickman, Mike Paton(ジーノ・ウィックマン、マイク・パトン)
出版社:KADOKAWA(日本語版)
発売:2024年(日本語版)