「自分でやった方が早い」「教えるのが面倒」「説明するのが難しい」──そんな理由で、つい仕事を抱え込んでいませんか?
責任感の強い女性リーダーほど、すべてを自分でこなしてしまいがちです。でも、それではチームは育たず、あなた自身も次のステージへ進むことができません。
本記事では、女性リーダーに必要な「権限委譲力」について、EOS(Entrepreneurial Operating System)の視点からわかりやすく解説します。「任せることは、手放すことではなく、育てること」。そのヒントをお届けします。
なぜ「権限委譲」が必要なのか?
なぜ「権限委譲」が必要なのか?
責任感が強い女性リーダーほど、つい「自分でやった方が早い」と仕事を抱え込みがちです。しかし、権限委譲は単なる負担軽減ではなく、チームと自分を成長させるための戦略的なスキルです。以下では、権限委譲がなぜ必要なのかを3つの観点から解説します。
1.チームを育てるには「任せる経験」が必要
人は実際にやってみなければ育ちません。どんなに丁寧に説明しても、経験に勝る学びはありません。リーダーがすべてを抱えてしまうと、メンバーには挑戦の機会が与えられず、成長の芽を摘んでしまいます。
特に女性チームでは「失敗させたくない」という気持ちが強く出ることがありますが、それは過保護と紙一重。任せることで、相手への信頼も伝わります。
2.リーダー自身が”次のステージ”に進めない
目の前の業務をこなすだけで一日が終わってしまう──そんな日々が続くと、「私はリーダーとして本当に機能しているのか?」と疑問が湧くことがあります。
実は、自分の“強み”や“本来の役割”が明確になると、「何を手放し、何に集中すべきか」が自然と見えてきます。
特に忙しいときほど、やるべきことを見極める視点が大切です。
手放すべき業務と、手放してはいけない業務をしっかり分けることが、リーダーには求められます。
本当に仕事ができるリーダーとは、すべてを抱える人ではなく、「任せるべきことを見極め、適切に委ねられる人」です。自分がやるべき仕事に集中するためにも、権限委譲は欠かせないスキルなのです。
3.チーム全体の生産性と持続力が向上する
リーダーが業務を抱え込んでいると、
「これは○○さんに聞かないと進まない」といった依存状態がチーム内に生まれます。
一方で、権限委譲が進めば、メンバーの自律性が高まり、
誰かが不在でも仕事が滞らない、持続可能なチームに近づいていきます。
特に中小企業や少人数組織では、属人化を防ぎ、業務の再現性を持たせることが組織の安定に直結します。これは女性リーダーにとっても、長く働き続けるための安心材料になります。
EOSが示す「リーダーの5つの能力」
EOS(Entrepreneurial Operating System)では、リーダーに必要な5つの能力が定義されています。その中でも特に重要なのが「権限委譲(Delegate)」です。
能力 | 内容 |
---|---|
単純化(Simplify) | 複雑なことを整理し、伝わる言葉に変える |
権限委譲(Delegate) | 責任ごと任せ、自分は本来の役割に集中する |
予測(Predict) | 起こりうる未来を読み、備える |
システム化(Systemize) | 仕組みによって業務を安定化させる |
構造化(Structure) | 役割と責任を明確にし、組織を整える |
この中で「Delegate(任せる)」は、チームをスケールさせるために不可欠な力。逆に、すべてを自分で抱え続けると、リーダーが成長のボトルネックになってしまいます。
👉 女性リーダー 5つの能力|EOSで育てる強いチームのつくり方
詳しくは、こちらの記事でさらに深く解説しています。
LMAでも強調される「任せる力」
EOSでは、リーダーが人を動かすための3つの基本機能を
「LMA(Lead, Manage, hold Accountable)」と定義しています。
このうち「Manage(管理)」は、単にタスクを振るだけではありません。
チームメンバーを信頼し、責任ある権限を委ねる姿勢が求められます。
たとえば、初めてチームを任された女性リーダーが、自分より年上のメンバーに業務を任せるとき。「失敗させてはいけない」「どう伝えたらいいかわからない」と不安を感じることもあるでしょう。
でも、リーダーが任せなければ、メンバーも育ちません。LMAの「Manage」で求められるのは、コントロールすることではなく、チームが成果を出せるよう環境を整えること。そのために必要な4つの要素を、以下で詳しく解説します。
1. 期待値(何を達成すべきか)を明確にする
「察してほしい」「これくらい言わなくてもわかるよね?」「それ、常識でしょ?」──そんな思いで仕事を任せた経験はありませんか?
でも実際には、伝える側と伝えられる側で「当然」の基準が違います。リーダーにとっては当たり前でも、メンバーにとっては「そんな話、初めて聞きました」ということもよくあります。
だからこそ、任せるときには
「何を・どこまで・いつまでに」やってほしいのかを、具体的に伝えることが大切です。
たとえば、「この資料は〇〇さんにも共有する予定なので、第三者が見てもわかる仕上がりにしてね」と一言添えるだけで、ゴールのイメージが明確になります。
察してもらうのではなく、丁寧に期待を言語化する。これが任せ上手な女性リーダーの第一歩です。
2. 役割に見合う権限を与える
「任せたつもりだけど、気づいたら全部に口を出していた…」そんな経験、ありませんか?
EOSでは、リーダーが誰かに役割を任せたら、「もう現場には戻らない」「その人に任せきる」という姿勢を徹底します。任せたあとに細かく指示したり、答えを与えたりすると、メンバーは自分で考える力を失ってしまいます。
もちろん、リーダーとして「サポート」は大切です。でもそれは「代わりにやってあげる」ことではありません。サポートのつもりが“干渉”になってしまえば、メンバーは自律的に動けず、結局「相談されないと動けない人」になってしまいます。
任せるとは、その人の判断と実行に責任を委ねること。うまくいかなかった時のリカバリーは後からできますが、「自分で考え、動く経験」はリーダーが奪ってはならない貴重な学びです。
女性リーダーに多いのは、「支えてあげたい」「失敗させたくない」という優しさから、つい手や口を出してしまうパターン。でも本当に育てるなら、“信じて任せる”という勇気もまた、リーダーの役割なのです。
3. 定期的に進捗を確認するが、やり方は任せる

「進捗どう?」「順調?」と確認することは、リーダーとして当然の関わりです。でも、「こうやって」「ここはこう直して」とやり方まで指示し始めたら、それはもはや“任せている”とは言えません。
EOSでは、毎週の「10点満点ミーティング(Level 10 Meeting)」で、石(Rocks)、スコアカード、ToDoの進捗を確認します。ここで大切なのは、結果と行動の達成度を見守ること。やり方に踏み込むのではなく、自主性を尊重する姿勢です。
メンバーから「ここまでやりました」と報告を受けたとき、
「じゃあ、こうやって作って」とつい指示を出してしまう…。
その小さな積み重ねが、指示を待つだけの人材を“自分で育てている”原因になっているかもしれません。
私たちはそのことに、もっと自覚的である必要があります。
確認はしても、口出しはしない。進捗は見守るが、やり方は任せる。この線引きができるかどうかが、任せ上手なリーダーと、抱え込み型リーダーの分かれ道です。
4. 失敗の経験も含めて、成長の場とする
「任せて失敗されたらどうしよう」「結局フォローするのは自分…」──そう思って、つい自分で抱え込んでいませんか?
でも、リーダーがすべてを引き受け続けることには限界があります。そしてそれは、自分が本来果たすべき役割を果たせなくなるだけでなく、チームの成長も、自分の成長の機会すらも奪ってしまうということに気づく必要があります。
失敗をさせないことが「正しい」わけではありません。任せて失敗しても、「次はどうする?」と一緒に考えることで、初めて“育成”が始まります。そして、リーダーである自分も「失敗を恐れず任せられた」という経験から、一段成長できるのです。
手放せない自分を「よくやっている」と思っているうちは、リーダーとして本当の意味での成長はありません。手放せないこと=良くないことだと認識できるかどうかが、次のステージに進むための分岐点です。
あなたの潜在能力も、リーダーとしての真価も、「誰かを信じて任せる」という行動の先にこそ、開かれていきます。
👉 LMAで女性リーダーを育成|EOS式マネジメントの基本と実践法
詳しくは、こちらの記事でさらに深く解説しています。
アカウンタビリティチャートで「誰が責任を持つか」を明確に
EOSでは、従来の組織図ではなく「アカウンタビリティチャート(責任構造図)」を用いて組織を可視化します。これは、“誰がどの責任を最終的に引き受けるか”を明確にするための仕組みであり、「任せる力」を育てるための土台でもあります。
たとえば、新たにチームを任された女性マネージャーが、部下の成果に自分が全責任を感じてしまうケース。誰がどこまで責任を持つのかが曖昧だと、仕事を任せることが怖くなり、自分で全部抱えることにつながります。
アカウンタビリティチャートの導入は、こうした“境界線のあいまいさ”を取り除き、「リーダーは自分の役割に集中する」「メンバーには任せる」といった、信頼と役割分担に基づいた関係性をつくります。
「責任を持つ=細部まで把握する」ではない
「任せるのが苦手」と感じる女性リーダーの多くは、
「責任者とは、すべてを把握し、細かくチェックする立場」と考えがちです。
しかし、EOSのアカウンタビリティチャートにおける“責任”とは、
プロセスの管理ではなく、成果に対する最終責任を引き受けることを意味します。
むしろ、任せることでメンバーに主体性を育て、自分はより大局的な判断や次の戦略に集中できる環境をつくる。それが真のリーダーの役割です。
「構造が先、人はあと」から始める
「あの人に何をやってもらうか」を先に考えるのではなく、まずは「この役割に求められる責任は何か」を明確にする。これがEOSの「構造が先、人はあと」という考え方です。
女性リーダーにとって、自分の強みやスタイルに合わせて仕事をつくることは心地よいかもしれません。しかしそれは“属人化”を生み、誰かに任せにくい環境をつくる原因にもなります。
役割を明確にすることは、他の人に任せやすくなる準備でもあり、自分自身が次のリーダーへバトンを渡す準備でもあるのです。
任せることで、リーダーは「自分の席(役割)」に集中できる
アカウンタビリティチャートの最大の価値は、「あなたの責任はここ」と線引きされることで、他のことを手放す勇気が持てる点です。
何でも自分で処理してしまう優秀な女性リーダーほど、「ここは自分がやった方が早い」と判断しがち。でもその行動が、組織全体の成長を止め、自分自身のリーダーとしての成長機会まで奪ってしまいます。
自分の席(役割)に集中する。それは「仕事を選ぶこと」ではなく、「リーダーの責任を果たすこと」。そのためにこそ、アカウンタビリティチャートは必要なのです。
👉 責任と役割の明確化で育てる女性リーダーの構造化マネジメント
詳しくは、こちらの記事でさらに深く解説しています。
まとめ|信頼して任せることで、リーダーも成長する
責任感が強く、仕事ができる女性リーダーほど、「自分でやった方が早い」と考え、つい仕事を抱えがちです。でも、それではチームも育たず、自分自身の可能性も広がりません。
EOSでは、LMA(Lead, Manage, hold Accountable)という考え方の中で、「任せる力=リーダーの基本」としています。期待値を明確にする、役割に見合った権限を渡す、進捗は見守り、やり方には踏み込まない──これらを丁寧に積み重ねることが、信頼と自律を育てるリーダーシップの姿です。
また、アカウンタビリティチャートを活用して「誰が何を最終責任として担うのか」を明確にすることは、リーダーが“本来の自分の役割”に集中するためにも欠かせません。何でも自分でこなすことが優秀なリーダーではなく、任せることでチームの力を引き出し、自分自身も次のステージへ進めるリーダーこそ、これからの時代に求められます。
「手放すことは、失うことではなく、育てること」。任せる力を育てることは、あなた自身のリーダーとしての進化につながります。
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