「悪いことをしたわけでもないのに、つい“すみません”と言ってしまう」
「指摘を受ける前に謝っておくほうが、場が丸く収まる気がする」
そんな“すみません癖”に心当たりはありませんか?
日本では「すみません」は、もはや万能の社交ツール。
謝罪・感謝・呼びかけ、すべてを柔らかく包み、相手との関係を壊さないための“予防線”として使われています。
責任よりも「場の空気」が優先される――そんな文化の中で育った私たちは、気づけば無意識に「すみません」を口にしているのです。
一方、海外では“Sorry”は明確な責任の表明。
自分の非を認め、原因を特定する姿勢が前提にあります。
つまり、「すみません」を多用することは、国際的な視点では「責任を曖昧にする態度」と見なされる可能性もあるのです。
リーダーにとって重要なのは、謝罪よりも原因を突き止める力。
「すみません」が口癖になっていると、問題の本質を見失い、チームの成長を止めてしまうこともあります。
そこで役立つのが、ビジネスの現場で実践されているEOS(Entrepreneurial Operating System)の考え方です。
EOS(Entrepreneurial Operating System/起業家型組織運営システム)は、経営者やリーダーが組織をシンプルに、そして力強く動かすための実践的な仕組みです。
「ビジョン」「人」「データ」「課題」「プロセス」「実行」の6つの要素を整え、会社全体を同じ方向へ導きます。
謝る前に“なぜ起きたのか”を考える姿勢も、EOSが重視する文化のひとつです。
リーダーがすぐ謝ると、チームの成長が止まる
リーダーがすぐに「すみません」と口にすると、その場の空気は一瞬で落ち着きます。
しかしその直後、問題の本質はどこかに置き去りにされてしまう――。
そんな場面を見たことはないでしょうか。
「すみません」と言えば、その瞬間は安心します。
でも、それは一時的な“関係の安心”であって、組織の安心にはつながりません。
原因を突き詰めないまま謝ることで、チームの思考は止まり、再発のリスクだけが残ります。
安易な謝罪が続くと、チーム全体が「リーダーが謝ってくれるから大丈夫」と思考停止に陥り、
 結果的に責任の所在も、改善の方向性もぼやけていきます。
つまり「すみません」は、誠実さのつもりが、責任を放棄する合図になってしまうことがあるのです。
リーダーが本当に取るべき責任とは、謝罪ではなく、再発防止と原因解明の行動です。
“すみません文化”が責任をあいまいにする
「リーダーがすぐ謝る」だけでなく、「部下もすぐ謝る」――。
実はこの構図こそ、組織の中で責任と役割が見えなくなる根本原因です。
誰かが「すみません」と言えば場が収まり、問題は一瞬で終わったように見える。
でも、何が原因で、誰の役割なのかが分からないまま、また同じことが繰り返されます。
日本の職場では、気まずさを避けるために“謝る人”が先に動く傾向があります。
「相手を守るため」「空気を悪くしないため」――その思いやり自体は美しいものです。
しかしその結果、「誰が責任を持って改善するのか」が不明確な状態が続きます。
リーダーが謝り、部下も謝る。
一見、謙虚で協調的に見えるその文化は、裏を返せば“誰も問題の所有者になっていない”ということ。
これでは、どんなに良いチームでも成果につながりません。
- 責任の所在が曖昧になり、誰も改善に動けなくなる
- 同じ問題が繰り返され、チームの成長スピードが鈍化する
- “考える前に謝る”習慣が、個人の判断力を奪う
本来、謝ることは悪ではありません。
でも、謝罪を「関係維持のツール」にしてしまうと、責任の明確化という本来の目的が失われてしまうのです。
謝ることで“安心”を得ようとする心理
“安心”を求める心理の裏側
人がすぐに「すみません」と言ってしまうのは、決して悪意ではありません。
それは、人間に備わった防衛本能のようなものです。
「怒られたくない」「関係を悪くしたくない」という気持ちから、
謝ることで自分を守ろうとする反応が働きます。
心理学的に見ると、謝罪には“安心を取り戻す効果”があります。
その場を落ち着かせ、緊張を和らげる作用があるため、
人は無意識のうちに「すみません」を使って感情を調整しようとするのです。
- 一時的安心:その場の空気を和らげ、衝突を避ける
- 関係維持:対立を恐れて相手との距離を保とうとする
- 自己防衛:責められる前に先に謝ることで、自分を守る
しかし、この感情的な安心を求めるあまり、思考的な停滞が起こることがあります。
本来なら「なぜ起きたのか?」と考えるべき場面で、
「とりあえず謝っておこう」という行動に置き換わることで、
原因の深掘りや再発防止の機会が失われてしまうのです。
謝るほど自信がないと思われるリスク
さらに厄介なのは、「すぐに謝る人」が職場で自信がない人・下に見られる人として扱われてしまうリスクです。
謙虚さや思いやりから出た言葉が、自己評価の低さや責任回避と誤解されることもあります。
頻繁な謝罪は一見「協調的」に見えても、信頼されるリーダー像とは真逆の印象を与えてしまう場合があります。
感情の安定を得るための“すみません”が、結果的に自分の立場を弱めてしまう――。
この誤解が積み重なると、チーム内で意見が通りにくくなったり、判断の機会を逃すことにもつながります。
リーダーに求められるのは、「謝る」よりも事実を整理し、改善に向けて話す力。
相手との関係を守るだけでなく、チームの前進を促す言葉へと変えていくことが、信頼されるリーダーの姿勢です。
謝らない勇気が、信頼を生む

何も悪いことをしていないのに、つい「すみません」と口にしてしまう。
日本の職場ではよくある光景ですが、リーダーにとってこれは自分の価値を下げてしまう習慣です。
本来、謝罪は過ちを認めるための言葉。
それを「場を和ませる」「相手を不快にさせない」目的で使いすぎると、
“自信のない人”という印象を与えてしまいます。
とくにリーダーの場合、「すみません」が口癖になると、
チームからの信頼や判断力までが小さく見られてしまうことがあります。
相手に譲るやさしさは大切ですが、必要のない場面での謝罪は、信頼の損失にもなるのです。
| シーン | 謝る言葉 | 言い換え例 | 
|---|---|---|
| 相手に迷惑をかけていないが気を遣いたいとき | 「すみません」 | 「ありがとうございます」 「お気遣い助かります」 | 
| 指摘されたとき | 「すみません、気をつけます」 | 「ご指摘ありがとうございます」 「次に活かします」 | 
| 会議で意見を遮られたとき | 「あ、すみません」 | 「はい、続けます」 「補足してもいいですか?」 | 
「謝らない」というのは、強く出ることではありません。
自分を卑下せず、対等な立場で相手を尊重するということです。
謝罪よりも、感謝・受容・前向きな姿勢を示す言葉に変えることで、
リーダーとしての信頼感がぐっと高まります。
言葉は、思考の鏡です。
一つひとつの言葉が、あなたのリーダーシップの印象を形づくっていくのです。
謝る前に、仕組みを整える
謝ること自体は悪いことではありません。
けれど、同じようなミスや誤解が繰り返されるなら、個人の努力ではなく「仕組みの不備」を疑う必要があります。
「謝る前に、整える」――それがリーダーにできる本当の対策です。
たとえば、情報が伝わらない・判断が遅れる・役割が曖昧――。
こうしたトラブルの多くは、人の性格や気配りではなく構造の問題から生まれます。
だからこそ、感情で謝る前に仕組みで防ぐ視点を持つことが大切です。
- アカウンタビリティチャート:役割と最終責任を明確にし、「誰の仕事か」を曖昧にしない
- スコアカード:数字で事実を把握し、感情的な「すみません」を減らす
- L10ミーティング:問題をチームで議論し、「個人の謝罪」ではなく「仕組みの改善」へつなげる
これらはすべて、アメリカで多くの中小企業が実践しているEOS(Entrepreneurial Operating System)の考え方に基づくツールです。
 そんなシンプルな仕組みが、チームの信頼を守ってくれます。
「謝る」より、「仕組みを変える」。
一人で抱えず、構造で支える。
それが、リーダーがチームの信頼を守る最も現実的な方法です。
まとめ|謝る前に、考える・整える・伝える
「すみません」は、人を思いやる優しい言葉です。
でも、何も悪くないのに謝ることが習慣になると、リーダーとしての自信や信頼を少しずつ削ってしまいます。
- 考える:本当に自分が悪いのか、それとも仕組みの問題かを見極める
- 整える:同じことを繰り返さないように、仕組みで防ぐ
- 伝える:「ありがとう」「助かります」など、前向きな言葉で信頼を築く
リーダーに必要なのは、すぐに謝る反射神経ではなく、
考え、整え、伝える力です。
言葉を変え、仕組みを整えることで、チームに安心と前進のリズムが生まれます。
今日から少しだけ、「すみません」を減らしてみませんか。
その一歩が、あなたのリーダーシップを静かに強く変えていきます。
書籍紹介|『TRACTION』で学ぶ、仕組みがリーダーを強くする
『TRACTION(トラクション)』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)の公式ガイドブックです。
組織が抱える「人・課題・数字・会議・優先順位」などの混乱を、シンプルな6つの要素で整える実践的な一冊です。
本書で紹介されるL10ミーティング(10点満点ミーティング)や石(Rocks)、スコアカードなどのツールは、
“謝るより、仕組みで動かす”というこの記事のテーマに直結しています。
感情や気合ではなく、構造で信頼を築く――それがEOSが教えるリーダーシップの形です。
「すみません」を口にする代わりに、
何が起きたのかを仕組みで見直し、チームを前に進める。
『TRACTION』は、そんなリーダーの姿勢を支える一冊です。
▶ 『TRACTION』 ビジネスの手綱を握りなおす 中小企業のシンプルイノベーション
 ジーノ・ウィックマン 著
 
  
  
  
  
